今から23年前、2001年3月28日に発売された浜崎あゆみのベストアルバム[A BEST]
これが本当に名盤!!
最高で最強のベストアルバム!!
たぶん俺の人生で一番聴いたアルバムがこの[A BEST]かも。
正直なところ、浜崎あゆみのベストアルバムだったら2008年に発売された[A COMPLETE 〜ALL SINGLES〜]のほうが収録曲も圧倒的に多く、聴き応えは抜群です。
でも、世間の人にとってあゆのベストアルバムといえばやっぱり[A BEST]なんですよね。
収録曲の選曲や一部の楽曲を歌い直すなど、細部にこだわりの見られるベスト盤ですが、意外にも本人は当初発売に乗り気ではなかったそう。
以下、Wikipediaからの引用(一部改変)
当時エイベックスが強制的に発売したため、浜崎自身は2004年の『スーパーテレビ』のインタビューで、「自分はavexの大切な商品なんだなと思った」と皮肉交りに回想し、嫌気が差して引退も考えたという。その抵抗感を表すべく、浜崎自身のアイディアでエイベックスから勝手に発売されたことへの憤慨として、涙を流すジャケットが採用された。また本人の希望で本作の発売に合わせて、あらゆる雑誌の表紙を徹底的にジャックした。
本人の意に反して発売された[A BEST]でしたが、人気絶頂期のベストアルバムだったこともあって、社会現象になるほどのメガヒットに。
以下、再びWikipediaからの引用(一部改変)
発売前からワイドショーで盛んに報じられ、発売日までのカウントダウンCMを放映。渋谷駅を広告で一面ジャックするなどプロモーションには莫大な費用が投じられた。その結果、初回出荷枚数は350万枚、バックオーダーを含めた初日出荷枚数は400万枚を記録。
浜崎あゆみ[A BEST(TVCM)]
発売初日に約161万枚、発売初週に約287万枚を売り上げ、初日売上枚数・初動売上枚数共に歴代2位!
累計で約432万枚を売り上げ、オリコン歴代アルバムランキング6位にランクイン。
(2000年以降に発売されたアルバムでは歴代2位)
日本を含む全世界トータルセールスは500万枚以上のモンスターアルバム。
[A BEST]が発売された当時、俺はまだ小学生だったんですが、学校でも流行に敏感な子たちの間で “あゆ” は大人気でしたね。
アルバムが発売された頃はちょうど学校が春休みだったので、俺も池袋の東武デパートで親にCDを買ってもらいました。
宇多田ヒカルのアルバムと同日発売で、2人のCDが大量に並んでいたんですが、どちらも飛ぶように売れていた記憶が鮮明に残っています。
あゆと宇多田のアルバムだけが並んでいる特設コーナーまであって、両方買っている人もいました。
CDが猛烈な勢いで売れて、店員が新しいCDを並べても、またすぐに売れていく状況。
俺も家に帰って、早速聴きましたよ。
買った当時の感想としては、
「いい曲がたくさんある!買ってよかった!」
そんな感じでした。
人気アーティスト “浜崎あゆみ” のベストアルバムを買って、流行の最先端に追いついた安心感もあったと思います。
まだ小学生だった俺にとって、音楽はとにかくメロディーが重要で、クオリティーの高い楽曲たちに感激したのが[A BEST]の第一印象でした。
それから浜崎あゆみの曲を聴くようになったんですが、大人になるにつれてあゆの歌詞の深さやボーカリストとしての表現力にも魅了されて、気付いたら一番好きなアーティストになっていました。
特にあゆの真骨頂とも言える歌詞。
誰もが理解できる単語を使いつつ、聴いている人が自分自身を重ね合わせて共感できる歌詞を作る才能は天才的!
多感な10代の時期に共感できる歌詞、大人になったからこそ共感できる歌詞、昔はよく分からなかったけど今なら理解できる歌詞‥
きっとあゆが本当に伝えたいことと、ファンの解釈が違う歌詞もあると思います。
歌詞の意味を考えさせられる部分も含めて、深みと重みがあるんですよね。
定期的に聴いていた[A BEST]も聴くたびに印象が変わって、歌詞の中に込められた想いやメッセージを考えてみるようになりました。
今回は[A BEST]の収録曲について個人的な感想を書いてみます!
(1)A Song for XX
1stアルバムの表題曲でシングルカットもされていない曲ですが、この曲を冒頭に持ってくる発想にアーティストとしての才能とセンスを感じますね。
涙を流しているモノクロのジャケット写真(ブックレット)を開くと、「どうして泣いているの? どうして迷ってるの? どうして立ち止まるの? ねぇ教えて」と物悲しい歌詞で幕を開ける構成。
サビ前の「居場所がなかった 見つからなかった 未来には期待できるのか分からずに」から「一人きりで生まれて 一人きりで生きて行く きっとそんな毎日が当たり前と思ってた」と言い切るラストまで、痛々しいほどの孤独を感じるロックテイストのバラードナンバー。
特に「人を信じることって いつか裏切られ はねつけられることと同じと思っていたよ」の歌詞からは、周りの大人への強烈な不信感と失望感すら伝わってきます。
同曲はベストアルバムの発売に際してボーカルを新録しているようで、デビューから3年を経て表現力を増した歌声が、歌詞に込められた孤独や心の痛み、悲しみを一層引き立てているのも大きなポイント。
オリジナルは初期のアイドルっぽい声が歌詞と合っていなかったのですが、歌唱力と声量が上がり、ボーカルに強弱をつけた情感のある歌唱法を身につけたことによって “心の叫び” がよりダイレクトに伝わってきました。
新たに歌い直したことで[A Song for XX]は格段に感情を揺さぶられる楽曲へと生まれ変わったと思います。
(2)Trust
3rdシングル。
“Trust=信頼” というタイトルや「自分を信じて ひとつ踏み出して 歩いていけそうな気がするよ」という歌詞に、戸惑いながらも自分を信じて一歩踏み出そうとする前向きな意志が込められた曲。
「あなたから見つけてもらえた瞬間 あの日から強くなれる気がしてた」「自分を誇ることできるから」の歌詞からは、自分自身を変えてくれた “あなた” への信頼が感じられますね。
また「あきらめるなんてもうしたくなくて じゃまする過去たちに手を振ったよ」と過去の孤独や悲しみへの決別を示唆しながら、“あなたを信じること=人を信じること” を恐れない姿勢には[A Song for XX]へのアンサーソング的な意味合いもあるのではないでしょうか?
少女から大人の女性に成長していく転換期だったからこそ生み出された名曲ですね。
(3)Depend on you
5thシングル。
「あなたがもし旅立つ その日がいつか来たら そこからふたりで始めよう」と新たな旅立ちの決意を示した疾走感溢れる一曲。
迷いながらも前を向いて進むことの大切さに気付いた[Trust]の続編のようにも思える曲ですが、「ずっと飛び続けて疲れたなら 羽根休めていいから 私はここにいるよ」という歌詞からは、大切な人を守ろうとする強さも感じます。
2番サビでは「あなたのこと必要としている人はきっと 必ずひとりはいるから」と歌っていて、この一言にはずいぶん励まされました。
基本的に “あなたと私” が主役の曲なのに、いつの間にか俺自身もあゆの歌詞に自らを投影して勇気をもらっていたんですよね。
「すべてを捨ててもいい程 これから始まっていく ふたりの物語は不安と希望に満ちてる」というラストの歌詞には、大きく変わっていく明日に向けて走り出す覚悟が込められているようで、聴いていると心が奮い立ちます。
新しいことに挑戦しようとする時や、人生の選択に悩む時に背中を押してくれるような曲。
ちなみにこの曲も[A Song for XX][Trust]と同様にボーカルを新録しているため、表現力を増した歌声からは歌詞に込められたメッセージがより力強く伝わってきます。
(4)LOVE〜Destiny〜
自身初のオリコン初登場1位を獲得した7thシングル。
ピアノのイントロから始まる美しいメロディー、透明感のある繊細な歌声、“別れ”をイメージさせる切ない歌詞がすべてマッチした珠玉のバラード。
あゆの数多いバラードの中でも、最もピュアで純粋な曲だと思います。
「ねぇ ほんとは永遠なんてないこと 私はいつから気付いていたんだろう」の歌い出しから泣けてくるんですが、大切な人との別れを連想させる歌詞にも関わらず、不思議と悲壮感はありません。
この曲の “あなた”が誰なのかは分かりませんが、2番サビ〜Cメロの「ただ出会えたことで ただ愛したことで 想い合えたことで これからも真実と現実の全てから目を反らさずに 生きて行く証にすればいい」という歌詞からは、巡り会えたことが尊く、これからの人生の道標になる大切な出会いだったことが分かります。
ラストサビでは「ただ出会えたことを ただ愛したことを 2度と会えなくても 忘れない」と優しく歌っていて、過ぎ去った日々の想い出を静かに振り返っているような情景が思い浮かんできます。
Cメロ→間奏→ラストサビにかけて、ドラマティックに盛り上がっていくメロディーとピアノの切ないアウトロまでの流れが最高です。
(5)TO BE
8thシングル。
「君がいたからどんな時も笑ってたよ 泣いていたよ 生きていたよ 君がいなきゃ何もなかった」と “君”への一途な気持ちを歌った曲。
「誰もが通り過ぎてく 気にも止めない どうしようもない そんなガラクタを大切そうに抱えていた」「周りは不思議な顔で 少し離れた場所から見てた それでも笑って言ってくれた “宝物だ” と」の歌詞には “君”の優しさと愛情の深さが込められていて、心が温かくなるバラードです。
“ガラクタ” が何を指しているのかは想像もつかないですが、他人が気付いてくれない大切な物を “君” だけが宝物だと言ってくれた嬉しさはきっと特別だったはず。
「ガラクタを守り続ける腕はどんなに痛かったことだろう 何を犠牲にしてきたのだろう」と “君”の痛みや苦労に想いを馳せながら、“君”を労わる気持ちが伝わってきます。
また「君がいなきゃ何もなかった」の一言からは、 “君”がいてくれたからこそ今の自分がいるという深い感謝の想いも感じられますね。
“君と私”が辿ってきた道を今思い返している。
そんな内容の曲でしょうか。
余談ですが、この曲のアコースティックバージョンもセンチメンタルな雰囲気があって大好きです。
(6)Boys & Girls
自身初のミリオンセラーを記録した9thシングル。
全盛期の幕開けを感じさせるアップテンポナンバーで、疾走感のあるメロディーと輝かしい未来に向かって飛び立とうとする “彼ら” “彼女ら” とあゆのストーリー。
内向的な歌詞が多かったあゆの曲ですが、この[Boys & Girls]では明確に若者たちのオピニオンリーダーとして存在感を発揮しています。
「輝きだした私達なら いつか明日をつかむだろう」「はばたきだした彼女達なら光る明日を見つけるだろう」「輝きだした彼達を誰に止める権利があったのだろう」という歌詞からも分かる通り、登場人物が一気に増えた点がこれまでの曲と大きく異なるところ。
あゆの歌詞は第一人称が曲によって違う点も特徴的ですが、この曲では “僕” と “私” が共存しているのが面白いです。
例えば最初のサビが「輝きだした僕達を誰が止めることなどできるだろう」と “僕達”であるのに対して、2番サビでは「輝きだした私達なら いつか明日をつかむだろう」と第一人称は “私達”
この“僕達” “私達”の使い分けにより、あゆ自身も男女の違いを超えた “1人の若者”として、俯瞰的に同じ若者たちの躍動を見守っているような印象を聴き手に与えています。
アップテンポで明るいメロディーですが、「朝焼けが眩しくて やけに目にしみて 胸が苦しくて 少し戸惑ってた」と “戸惑い”を率直に吐露していて、ありふれたサマーソングとは一線を画しているのも印象的。
あゆ自身の大ブレイクにリンクするような躍動感溢れるメロディーと歌詞で、とことん明るい曲です。
(7)Trauma
自身最大のヒットシングルとなった10thシングル[A]収録曲。
曲調はデジタルサウンドのダンスポップなのですが [Trauma]のタイトル通り、過去の心の傷と誰も知らない自身の一面について歌った一曲。
前作[Boys & Girls]が多くの人たちに向けられた歌だとすれば、[Trauma]はあゆ自身の秘められた内面について描かれていると言えるでしょう。
まずAメロの「時間なんてものはとても 時として残酷で でもその残酷さゆえに 今が創られて」から、人生が諸行無常であることを痛感させられます。
「足元で揺れる花にさえ 気づかないままで 通り過ぎてきた私は鏡に向かえなくなっている」と “過去への悔恨” を打ち明け、「今日のうれしかった顔 今日の悲しかった顔 きのう癒された傷と 今日深く開いた傷を あなたなら誰に見せてる? 私なら誰に見せればいい?」と問いかけるサビからは、他人に安易には胸の内を明かせない迷いや葛藤が感じられますね。
「ムダなもの 溢れてしまったもの 役立たないものも 迷わずに選ぶよ そう私が私であるためにね」「幸せの基準はいつも 自分のものさしで決めてきたから」と自らの意思を主張する芯の強さも見せ、“過去の傷” と “確固たるアイデンティティー” の間で揺れる心境をうまく表現していると思いました。
曲のラストではようやく自身の古傷を「私ならあの人に見せたい」と明かしています。
聴き心地のいいポップスに無機質なデジタルサウンドという組み合わせも斬新ですが、そこに秘密主義的で影のある歌詞が乗ったオリジナリティー溢れる一曲。
(8)End roll
10thシングル[A]収録曲。
歌い出しからすでに「もう戻れないよ どんなに懐かしく想っても あの頃確かに楽しかったけど それは今じゃない」と哀愁感が漂う切ないバラード。
サビの「君はどこにいるの? 君はどこへ行ったのか 遠い旅にでも出たんだね 一番大切な人と」という歌詞からも分かる通り、端的に言えば“別れ”がテーマでしょうか?
それまでのあゆの曲は、孤独や心の痛みを歌った曲が多かったのですが、この[End roll]はとにかく“哀愁” を強く感じる曲。
ただ、ラストサビでは「人は哀しいもの 人は哀しいものなの? 人はうれしいものだって それでも思ってていいよね」「そして歩いて行く 君も歩いてくんだね ふたり別々の道でも 光照らしていけるように」と哀しみの中に一筋の希望を見つけ出そうとする “救い” もあり、“君”と別の道でも前向きに歩き出そうとする歌詞が印象的です。
戻りたい “あの頃” を懐かしく思いつつ、「別々の道を選んでもきっと光は見つかる」と人生の真理を的確に表現している点も見事。
冒頭の悲壮感は少しずつ薄れ、最後には前を向いて歩いていくという歌詞の展開が秀逸で、一曲の中にドラマのようなストーリー性を感じられます。
(9)appears
2ndアルバム[LOVEppears]と同日発売の11thシングル。
クリスマスソングでありながら浮かれた要素は一切なく、どこか冷めていて俯瞰的な目線で綴られた歌詞が印象に残るミッドテンポのバラード。
「恋人たちはとても幸せそうに 手をつないで歩いているからね まるで全てが そうまるで何もかも全てのことが上手くいっているかのように見えるよね 真実のところなんて誰にも分からない」と客観的な視点で歌うラストサビからも分かるように、“他人の心情は本人にしか分からない” という事実を改めて教えてくれる曲です。
すれ違う人々が「楽しそう」とか「幸せそう」なんて印象はあくまで勝手な想像に過ぎず、抱えている不安や悩みまで窺い知ることはできません。
もちろん逆も然りで、自分の気持ちは自分自身にしか分かりませんよね?
当たり前のようで意外と気付いていない “印象” と “真実” の違いを綴った[appears]の歌詞は冷静かつ的確で、あゆの視野の広さと視点の正確さがよく分かる曲だと思います。
淡々と並べられた言葉は丁寧ですが、とかく“イメージ” だけで物事を決めつける世間に対して「あなたに私の何が分かるの?」と痛烈な一言を浴びせているようにも受け取れる曲です。
まぁこれも個人的な感想なので、「真実のところなんて誰にも分からない」ですけどね。
(10)Fly high
2ndアルバム[LOVEppears]からのリカットシングル。
新たな旅立ちを歌ったアップテンポなナンバーで、[Depend on you]を彷彿とさせる前向きな一曲です。
「離れられずにいたよずっと 見慣れてる景色があったから」という冒頭の歌詞からは、“慣れた場所” を離れることに躊躇していた様子が感じ取れるのですが、それもあくまで過去形。
「全てはきっとこの手にある ここに夢は置いていけない 全てはきっとこの手にある 決められた未来もいらない」「全てはきっとこの手にある 始めなきゃ始まらないから」という力強い歌詞からは一切の迷いも弱さもなく、頼もしい成長を遂げたあゆの “強さ”を見ることができます。
前述の[Depend on you]では新たな旅立ちに一抹の不安を感じる部分もありましたが、この[Fly high]に関してはタイトル通り、どこまでも高く飛び上がっていけそうな躍動感が伝わってくるイメージですね。
切ない曲や影のある曲が多い[A BEST]では、かなり異彩を放っている曲だと思います。
なお[A BEST]に収録されているのは、2ndアルバム[LOVEppears]と同じロックテイストのアルバムバージョンですが、個人的にはトランスを基調としたシングルバージョンもリズミカルで気に入っています。
(11)vogue
14thシングル。
「君を咲き誇ろう 美しく花開いた その後はただ静かに 散って行くから」というサビの歌詞が強烈なインパクトを放つ一曲。
一聴しただけでは歌詞の真意が読み取りにくいのですが、この曲はあゆが自身を “流行=vogue”に例えて、“満開に開いた花もいつかは散ってゆく” と自虐的に歌っている意味深な曲ですね。
当時まだ21歳で、人気全盛期でもあったトップアーティストがここまで客観的かつ俯瞰的に自分を見つめることができるのは、まさに天賦の才。
普通であれば若いうちに大成功を収めただけでも舞い上がってしまいそうですが、[vogue]の歌詞は徹底して冷静に “美しく花開いた” その後を見据えています。
栄華を極めた者も必ず終焉の時を迎え、この世界に永続する輝きなど存在しないことを歌った “盛者必衰” がテーマの曲で、他の誰にも書けない唯一無二の歌詞だと思います。
ちなみに次作[Far away][SEASONS]とともに “絶望3部作”と称された楽曲群のうちの一曲であり、ネガティブで後ろ向きな歌詞も納得できました。
エキゾチックなアラビア風(?)のサウンドアレンジが今までにないタイプの曲で、歌詞は比較的短く、逆にイントロやアウトロが長い点が特徴的。
(12)Far away
15thシングル。
いわゆる“絶望3部作” の第2弾シングルで、失恋の悲哀を歌った曲です。
“あなた” と “私” がまだ恋人だった頃によく来ていた海へ1人きりで行った “私”
思い出の海では「聞こえる波音が 何だか優しくて 泣き出しそうになっているよ」と率直な思いを吐露しています。
「新しく 私らしく あなたらしく生まれ変わる」と少し前向きな歌詞が出てきたと思いきや、間髪入れず「幸せは 口にすればほら 指のすき間 こぼれ落ちてゆく 形ないもの」と続き憂鬱な心情が痛いほど伝わってくる曲。
2番サビでは「人は皆 通過駅とこの恋を呼ぶけれどね ふたりには始発駅で終着駅でもあった そうだったよね」と終わってしまった恋が2人にとって特別な恋だったことを示唆していて、単なる “別れの歌” ではないようにも思えてくるんですよね。
2人が望んでいなかった離別かもしれないし、もしかすると “あなた” はもう永遠に会えない人なのかも‥と深読みしてしまう歌詞。
曲調もアレンジも含めてかなり暗い曲ですが、悲壮感漂う憂鬱な雰囲気が不思議と聴き心地のいい曲です。
ラストを締めくくるワンフレーズ「もうすぐで夏が来るよ あなたなしの」が、哀しく暗い雰囲気を一層引き立てています。
(13)SEASONS
16thシングル。
シングルでは自身3作目のミリオンセラーとなったあゆの代表曲で、絶望3部作の集大成とも言える名曲。
冒頭の「今年もひとつ季節が巡って 思い出はまた遠くなった」「曖昧だった夢と現実の境界線は濃くなった」という歌詞からは、大人になること=現実を受け入れて生きていくことだと否応なしに気付かされます。
サビの「今日がとても楽しいと 明日もきっと楽しくて そんな日々が続いてく そう思っていたあの頃」は、まさしく10代だった “あの頃” の自分そのもの。
毎日が希望に溢れ、今日より明日はもっと楽しいと無邪気に信じて疑わなかった日々。
だけどそんな日々は一瞬の幻想で、自分自身の限界や世間の厳しい現実を知り、楽しかった思い出まで記憶の彼方に遠ざかっていく悲しさと虚しさが伝わってくる曲です。
2番サビ「今日がとても悲しくて 明日もしも泣いていても そんな日々もあったねと 笑える日が来るだろう」の歌詞から、辛い現在もいつか “過去” として受け止められるはずだという希望を感じられる点が唯一の救いでしょうか。
いくつもの季節が過ぎていく様を表現しているようなエモーショナルでメロディアスな間奏部分を経て、ラストサビの「幾度巡り巡りゆく 限りある季節の中に 僕らは今生きていて そして何を見つけるだろう」という一節からは、人生の意味を問いかけられているようにも感じますね。
[SEASONS]は大人になって改めて聴いてみると歌詞の深さをようやく理解できた気がして、昔よりもっと共感できる曲になりました。
懐古的でありながら少しずつ現実と向き合っていこうとする歌詞、淡々と物憂げに歌うあゆのボーカル、やや哀しく切ないメロディーと編曲、楽曲の世界観を見事に表現した間奏のギターソロも含めて、すべてが完璧な一曲だと思います。
(14)SURREAL
3rdアルバム[Duty]と同日発売の17thシングル。
“君はそのままでいてほしい” “私も私のままで変わらずにいるよ” と前向きなメッセージを投げかける反面、言い知れぬ孤独感や寂しさも感じる不思議な曲。
サビの「どこにもない場所で 私は私のままで立ってるよ ねえ君は君のままでいてね そのままの君でいてほしい」から推察すると、どこか遠い場所にいる誰かにエールを送っているようです。
「背負う覚悟の分だけ 可能性を手にしてる」「どんなに孤独が訪れようと どんな痛みを受けようと 感覚だけは閉ざしちゃいけない 例え言葉をなくしても」と自分自身の信念を貫こうとする強い意志が伝わってきて、この曲あたりからボーカルも力強くたくましいイメージに変わっていきましたね。
[vogue][Far away][SEASONS]と続いてきた絶望感や虚無感に一区切りをつけて、再び自分を奮い立たせているような印象も受けました。
Aメロ→Bメロ→Aメロ→Bメロ→Cメロ(2回)→Dメロ→サビ(2回)と珍しい構成の曲ですが、個人的にはDメロの「誰にも言えない 誰かに言いたい あの人が誰より大切って」から、サビに向かって一気に景色が広がっていくようなメロディーと編曲がすごく好きです。
(15)M
19thシングル。
自身が作曲を手掛け、シングルでは4作目のミリオンセラーを記録。
痛いほど純粋に人を愛する気持ちを歌ったロックバラードで、聴いているだけで胸が締めつけられるような一曲。
美しいピアノの旋律と共に「‘MARIA’ 愛すべき人がいて キズを負った全ての者たち」という優しい歌声で始まり、1番Aメロ〜Bメロまではアコースティックアレンジで繊細なボーカルを際立たせています。
「今日もまたこの街のどこかで 出会って目が合ったふたり 激しく幕が開けてく」と “出会ったふたり” の恋が始まる瞬間までは、アコースティックなアレンジで物静かな雰囲気ですが、2番のAメロに入る前の間奏からロック調のサウンドへと変化。
このサウンドの変化こそ、激しい恋が時に辛く苦しいものであることを効果的に表現していて、曲の世界観に引き込まれていく重要なポイントだと思います。
そしてサビの「‘MARIA’ 愛すべき人がいて 時に強い孤独を感じ だけど愛すべきあの人に 結局何もかも満たされる」「‘MARIA’ 愛すべき人がいて 時に深く深いキズを負い だけど愛すべきあの人に結局何もかも癒されてる」という歌詞。
「どうしてあの人を好きになったんだろう?」なんて考えてもきっと答えは出ないし、他人から見れば理解できない恋愛もあるはず。
誰かを愛することは理屈なんかじゃなく、自分では抑えられない感情なんですよね。
深く愛する人がいるからこそ傷つき、孤独を感じることもあるけれど、最後はいつも愛する人に救われるもの。
「誰も皆泣いている」「だけど信じていたい」「だから祈っているよ これが最後の恋であるように」と先の見えない恋に不安を感じて涙を流していても、ひたすら祈り続けるしかない苦しさ。
世の中にラブソングは数多くあれど[M]ほど、“愛の痛み”を切に歌っている曲は他にないと思います。
「理由なく始まりは訪れ 終わりはいつだって理由を持つ」と、これまた意味深なフレーズで幕を閉じるところも秀逸ですね。
壮大なサウンドアレンジが歌詞とメロディーにマッチしていて非常に完成度の高い一曲。
(16)Who...
2ndアルバム[LOVEppears]収録曲。
シングルカットこそされていないものの、あゆの代表曲でありライブでは定番の名バラード。
[A Song for XX]を[A BEST]の冒頭に収録した選曲センスも抜群ですが、この[Who...]でラストを締めくくるあたりも最高だと思います。
ファンや周囲の大切な人たちに向けて「これからもずっと この歌声があなたに届きますようにと」と願いながら歌うメッセージソングで、フィナーレに相応しい曲。
[Who...]をラストに選んだことで、切ない曲や哀しい曲が多かった[A BEST]は最後に救われた印象を受けました。
アルバム全体が映画のようで、途中に紆余曲折ありながらも[Who...]がすべてを優しく包み込んでくれるエンディングテーマみたいな感じですね。
以前、あゆ自身がインタビューで「いつか時代が変わってもファンの人たちの心に残る曲を作りたいし、自分の曲を忘れずにいてくれたら嬉しい」と答えていたことを思い出しました。
たぶんその想いが[Who...]の歌詞に込められていて、あゆはこれからもずっと歌声を届けてくれると信じています。
俺がこの曲の歌詞で一番好きなフレーズは、サビ前の「道に迷った時 そして道が遠すぎた時に ひとりつぶやいていたよ そんなものだと」という一節。
人生はいつも迷い道の連続で、諦めてきたことや叶わなかったこと、失ったものばかり。
その度に「そんなものだ」と半ば諦めながら前に進んできたのですが、[Who...]を聴くと心が落ち着きました。
どんなに焦っても悩んでも、やっぱり人生なんて「そんなもの」だから‥
あゆにとっての「そんなものだ」とは、達観した上での納得なんでしょうか?もしくは妥協や諦めなんでしょうか?
こればかりは、本人にしか分からないことですね。
〈総評〉
[A BEST]の収録曲を改めて聴いてみると、歌詞と曲のクオリティーが本当に高いと思いました。
歌詞が曲を引き立て、曲が歌詞を引き立てることでクオリティーの高い楽曲を次々と生み出してきた浜崎あゆみの集大成とも言えるベストアルバムで、大ヒットも納得の内容。
すべての曲にメッセージ性があり、どの曲にも共感できる部分があるんですよね。
本作はすべて1998年〜2000年までに発表された楽曲で構成されていますが、[A Song for XX]で始まって[Who...]で幕を閉じるラストまでの流れなど、あゆ自身が選曲した収録曲からも自己プロデュースのセンスを感じました。
選曲に関して言えば、21世紀最初のシングル[evolution]から歌詞や曲調の傾向が大きく変化していったので、収録曲を20世紀最後のシングル[M]で一区切りにしたのは正解だったと思います。
2001年以降にリリースされた楽曲は[A BEST2 -WHITE-][A BEST2 -BLACK-](2007年発売)[A COMPLETE 〜ALL SINGLES〜](2008年発売)[A SUMMER BEST](2012年発売)[A BALLADS2](2021年発売)などに収録されていて、これらのアルバムもおすすめです!
とにかく[A BEST]は名曲揃いなので、まだ聴いたことがない人は是非聴いてみてください!