ジャニーズ事務所の先代社長・故ジャニー喜多川氏の性加害疑惑に関して、同事務所は5月14日に公式サイトで現社長・藤島ジュリー景子氏の謝罪動画を公開。
これに伴い、民放各局は一斉に本件を報道した。
きっかけは元ジャニーズJr.の男性が、ジャニー喜多川氏から受けた性被害について(実名及び顔出しで)公表したことによる。
今年3月に英BBC放送が報道したジャニー氏の性加害疑惑が日本でもネットを中心に話題となり、ジャニーズ事務所の現社長・藤島ジュリー景子氏が前述の被害男性と2時間に及ぶ面会と謝罪の末、公式に謝罪動画を公開するに至ったというのが一連の流れだ。
現段階では先代社長・ジャニー喜多川氏が故人である点から、被害者の人数や過去の被害状況が完全に把握できていないのも事実である。
被害者となった元ジャニーズJr.の男性が負った心の傷は計り知れないし、勇気ある告発には相当な覚悟を要したことだろう。ましてや未成年者が性的に搾取されるような事例は絶対に許されることではない。
しかし個人的には、世間による異常なまでの “ジャニーズ事務所バッシング” に若干の違和感を感じている。
重要な点は、ジャニー喜多川氏による未成年者への性加害の実態調査と謝罪、そして被害者の心のケアであり、現社長に責任を転嫁するような世論も異様だ。
ましてや所属タレントには一切の落ち度もなく、ジャニーズ事務所全体への過度なバッシングは営業妨害にもなりかねない。
それ以上に、今回の一連の騒動は日本社会に深く根付いた大きな問題が関係しているような気がしてならないのだ。
具体的には、
①女性蔑視
②ホモフォビア(同性愛嫌悪)
この2点が主な問題点として挙げられるように思う。
まず最初に考えたいのは、
①女性蔑視 について。
今回ジャニーズ事務所がバッシングを受けた一連の騒動では未成年の男性(少年)が被害者である。
しかし、冷静に考えてみてほしい。
日本の芸能界では、アイドルやタレントを目指す若い女性が “枕営業” と呼ばれる性接待を強いられる被害を受けてきたケースが (少年よりも) 圧倒的に多かったはずだ。
多くの少女たちが性被害に遭ってきたのは明らかな事実で、抗議の声も上げられずに泣き寝入りするパターンや、自ら命を絶ってしまう悲惨な事件まで起きている。
ところが、憤慨すべきこれらの事実に関して世間の人々が加害者を大きく糾弾していた記憶はあまりない。
特に加害者側にもなりうる男性たちからは、
「偉いプロデューサーに媚びただけ」
「売名行為」
「一種のハニートラップみたいなもの」
等々と、ネット上で被害者の少女たちを誹謗中傷するような残酷なコメントさえ散見された。
立場や地位を利用して若い女性を性的に搾取してきた男たちを批判するどころか、逆に擁護するようなコメントには怒りを感じたほどだ。
「英雄色を好む」と言わんばかりの低俗な論調から読み取れるのは、まさに女性蔑視 (正確には女性の性被害を軽視している) という重大な問題点である。
もっと厳しく批評すれば、“若い女性 (少女) を性的な対象として見るのは男の生物的本能” と考える悪質な男性たちの存在によって、本来なら守られるべきはずの少女たちが逆に「隙を見せた」などと理不尽な中傷を受けてきたのだ。
少し話は変わるが、2017年頃からハリウッドで映画プロデューサーから性被害を受けた女優たちの告発を発端に#Me Too運動が反響を呼び、世界中に広がっていった。
未成年者への性加害に対しては厳しい罰を科すイメージが強い欧米諸国でさえ、このように多くの少女たちが辛い体験を共有してきた事実には驚かされた。
ところが、日本でこの活動が注目されることはあまりなかったように感じた。
しかし今回のジャニー氏の一件では、被害者が男性(少年)だったことによって世論は急変。
すぐさま “ジャニーズ事務所バッシング”を開始している。
これまで芸能界でも数えきれないほど発生していた未成年の少女たちの性被害は軽視 (酷い場合には誹謗中傷) されてきたにも関わらず、少年が被害者になった途端、親の敵のようにジャニー喜多川氏をバッシングする世間の風潮には疑問を感じざるを得ない。
繰り返し述べるが、過去に多くの少女たちが性被害に遭ってきた忌まわしい事実を軽視していた世の中の男性たちが、今さら(都合よく) “正義論” を持ち出すのは滑稽ではないだろうか?
まさにダブルスタンダードの極みとも言える。
もちろん被害者が少年でも少女でも、同じように庇護する必要があるのは当然で、大人には青少年が健全に暮らせる世の中を作り上げていく義務がある。
そのためには、「すべての性加害を許さない」という毅然とした態度が必須条件なのだが、被害者の性別によって、バッシング度合いに温度差があっては説得力がない。
②ホモフォビア(同性愛嫌悪)
前述の女性蔑視にも通じる部分があると思うが、加害者が男性で被害者が少年だった場合にクローズアップされがちなのは、加害者男性=同性愛者という点だ。
本来非難されるべきは、性加害と未成年者に対する性的搾取のみであって、性的指向(いわゆるLGBTQ)は一切関係がない。
ところが論点を理解していない一部の人々は、なぜか〈加害者が同性愛者である点〉を殊更に強調する節がある。
例として今年2月、中学教諭の男が男性宅に不法侵入した事件で、静岡県の浜松市議が「異常な性癖」と発言。
さらに「普通は女性の部屋に入る」と的外れな見解を述べて批判されている。
問題の争点となる “不法侵入” については触れられず、いつの間にか “男性宅に侵入したこと” を揶揄する方向に話が変わってしまったのだ。
男性の部屋だろうが女性の部屋だろうが、不法侵入はれっきとした犯罪である。
ジャニー氏についても同様に、「少年を性的な対象として見るなんて気持ち悪い」などと論点のズレたコメントをネット上で見かけるが、問題を根本から履き違えているとしか言いようがない。
何度も言うが、被害者が “少年” だから問題なのではない。
少年でも少女でも、大人が未成年者を性の対象として見ることが一番の問題であり、同性も異性も関係ないのだ。
〈ジャニーズ事務所へのバッシングに関する個人的見解〉
まずは性被害に遭った元ジャニーズJr.の男性の心の傷が1日でも早く癒えることを願うと同時に、勇気を持って告白したことに敬意を表したい。
一般的に性犯罪の被害に遭った方々の精神的なダメージは大きく、事件の記憶がフラッシュバックすることを恐れて告発を躊躇するケースも多いなかで、自らメディアに顔を出して詳細を語るのは相当の覚悟が必要だったはずだ。
ジャニーズ事務所の現社長・藤島ジュリー景子氏の公式な謝罪動画は、概ね誠実な対応に見受けられて好印象だった。
ジャニー喜多川氏の性加害について言えば、今となっては詳細な真実を知るすべもなく、責任の所在が曖昧になってしまった点が残念だ。
冒頭でも述べたが、ジャニーズ事務所全体へのバッシングは度を越していると感じる。
芸能界全体で横行する少女たちの性被害を半ば黙認していた世間が、ジャニーズ事務所だけを狙って叩くのは不可解な話だ。
ネット上では所属タレントまでもが揶揄されたり、根拠のない噂を流されたりしているケースも見られるが、これは明らかな誹謗中傷なので許されることではない。
(はっきり言ってしまえば、ただジャニーズを叩きたいだけのアンチが騒動に便乗しているだけで、非モテ男たちの嫉妬や僻みだろう)
男性アイドル業界のパイオニアとも言えるジャニーズ事務所だからこそ、今後は現社長の元でコンプライアンスを重視した風通しのいい社風に生まれ変わり、令和のアイドル業界を席巻していってほしい。
ジャニーズ事務所のアイドルたちを応援してきた多くのファンのためにも、度を越した過剰なバッシングに負けないでほしいと切に願っている。